大阪産業大学 田原研究室(Advanced_Rocket_Lab.)
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  1)小型衛星搭載用パルスプラズマロケットエンジンシステムの開発

近年、ピギーバック方式(大型主衛星の余剰空間に小型衛星を相乗りさせる方式)により、超小型人工衛星の打ち上げが身近なものになった。特に小型化によって人工衛星の開発・製造期間の短縮、打ち上げコストの削減、超小型人工衛星による特殊ミッションの設定などの観点から、企業や大学などの研究機関で超小型人工衛星の研究開発が盛んである。

それに伴い、50 kg程度の超小型衛星に小型エンジンを搭載する件数および計画が増加している。東京大学やJAXAは、2014年に過酸化水素を推進剤とする小型一液式化学燃料エンジンを搭載したHODOYOSHI衛星1-3号機の打上げに成功した。搭載された化学燃料エンジンの特徴として発生させる推力は数百mNと非常に大きいが、比推力が数十-百秒程度であることから衛星質量のうち、推進剤質量が占める割合が大きいという問題がある。その後、HODOYOSHI衛星4号機には化学燃料エンジンではなく、比推力が数百-千秒以上に達する、グリッド型イオンエンジンを採用した。さらに、2014年12月にはイオンエンジンとコールドガスエンジンを統合させた推進システムを採用した超小型深宇宙探査機PROCYONの打上げに成功し、小型エンジンが深宇宙探査に応用可能であることを目指した。

小型電気推進の中ではパルスプラズマエンジン(Pulsed Plasma Thruster:PPT)は、図1に示すように、主に昇華性が優れた固体のポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene:PTFE)、通称テフロンを推進剤に採用しており、推進剤タンクやバルブ等が不要であり、電極間に推進剤を設け点火装置イグナイタのパルス放電により推進剤壁面を昇華・電離させプラズマを発生・噴射させる。電極形状は一般的に2種類ほど存在し、それぞれで発生させたプラズマの加速方法は異なる。並行平板型電磁加速型PPTは電磁気的に、同軸型電熱加速型PPTは気体力学的に加速させ推力を得る。PPTの作動シーケンスは、時間間隔を設定したイグニッション放電によりキャパシタに充電された初期エネルギーを数十マイクロ秒以下で主放電させ、その後キャパシタに再充電・放電となる。この一連の動作を連続的(繰り返しパルス作動)に行うことからイグニッション放電の時間間隔、パルス幅を可変することで消費電力を変更させることが可能である。PPTは小型・軽量化に優れており、数十W以下でも作動が可能であり、超小型衛星に搭載するには最適な小型エンジンの一つである。

世界的には、2013年に打上げられたSurrey Satellite Technology Limited(SSTL)の3Uサイズ(10 cmキューブサイズが1 Uであり、その3個分が3 U)である「STRaND-1」衛星に約0.336 kgのPPTが搭載され宇宙作動実績があり、これまで15機以上の宇宙機に搭載された。現在、開発・販売されているPPTシステムとして、PPTCUP(Mars Space Ltd (MSL)・Clyde Space Ltd (CSL)・University of Southampton (UoS))、MPACS(Busek Co. Inc.)がある。これらのPPTの8割ほどを占めるのは、固体推進剤テフロンの供給機構が確立され、長時間作動および比較的高い比推力を誇る平行平板型の電極形状、いわゆる電磁加速型PPTである。しかし、推力・電力比および推進効率等については10-20 マイクロNs/W、1-13%にとどまる。超小型衛星の軌道遷移、動力飛行を達成させるには同軸型の電極形状をもつ電熱加速型PPTしかない。

田原弘一教授の研究グループでは2007年以降、電気推進機を搭載した超小型衛星の開発を進めている。2012年9月9日には電熱加速型PPTを搭載した超小型衛星1号機がインド宇宙研究機関(Indian Space Research Organization:ISRO)のPSLVロケットC21機により打ち上げられた。衛星1号機は一辺が290 mmの立方体、質量は14.5 kgであり、メインミッションは2.5 W級PPTの作動実証、その連続作動による投入軌道高度から1 kmの高度上昇であった。現在、図2に示す、超小型衛星2号機の開発を行っており、世界初の50-100 kmの軌道遷移、長距離動力航行を目指し、30 W級電熱加速型PPTシステムを最終製作、試験中である。

衛星2号機に搭載する高推力および長時間作動型PPTシステムの開発では、高インパルスビット発生可能な放電室形状の実験と数値計算を併用した最適化により、放電室直径4 mm、長さ50 mmと決定し、インパルスビット2.47 mNs、マスショット738 マイクロg、比推力342 s、推進効率13.1%を得た。耐久実験を行った結果、図3に示すように、100,000ショット以上の作動を確認し、トータルインパルス100 Nsを達成した。さらに、長時間作動型PPTヘッドとして、図4に示す多放電室型PPTヘッド(Multi-Discharge-Room type PPT:MDR-PPT)を考案した。複数、7個の放電室をもつPPTヘッドであり、放電室ヘッドはイグナイタをそれぞれ独立に持っており、どの放電室を作動させるかはイグナイタを選択することにより決めるシステムである。有限会社ハイ・サーブ社製パワープロセシングユニット(Power Processing Unit: PPU)を用いて、MDR-PPTヘッドの作動実験を行った結果、放電室間の切り替えは問題なく成功し、長時間作動を達成した。現在、図5に示す、MDR-PPTヘッドとPPU、キャパシタを含むMDR-PPTシステム(質量5.32 kg、サイズ232 x 226 x 158 mm)を設計・開発し、その最終耐久試験中である。衛星2号機では、MDR-PPTの作動により、衛星進行方向にプラズマを噴射することで、軌道を周回する衛星の速度を減速させ、高度を降下させる軌道遷移(動力航行)させる。

衛星2号機では、姿勢制御用アクチュエータにリアクションホイールと磁気トルカを、姿勢制御用センサに太陽センサを5台、ジャイロセンサを各軸に1つずつで計3台、地球センサを1台、磁気トルカを用いた制御を行うため地磁気の磁束密度測定用に磁気センサを1台搭載する。通信機は(株)西無線研究所によって超小型衛星用に開発された無線機を用いる。オンボードコンピュータ(On-Board Computer: OBC)にはLinuxを組み込みARMプロセッサを搭載したRaspberry Pi model B+を採用する。電源装置システムには、バッテリーにPanasonic社製エネループプロを、太陽電池にAZUR SPACE社製のGaAsセルを採用する。構体にはハニカムアルミプレートを主構造として用いる。

衛星2号機の動力飛行が実証されれば、デブリ処理、地球観測など、超小型衛星でありながら、その活躍の場が大いに広がると期待される。大阪産業大学では、動力航行機能をもつ本衛星そのものを世界的に販売する予定である。また多様なミッション、大小様々な衛星に適用できるPPTシステムの開発、提供も行う。

 
図1 30 W級電熱加速型パルスプラズマエンジンヘッドの断面図(左)と放電写真(右)


図2 超小型衛星2号機(質量50 kg, サイズ 一辺500 mm 立方体)


図3 30 kW級電熱加速型パルスプラズマエンジンにおけるインパルスビット(発生力積)のショット数依存性

 
図4 超小型衛星2号機搭載用30 W級多放電室型電熱加速パルスプラズマエンジンヘッド
(左:ヘッド本体、右:放電写真(中央放電室))

 
図5 超小型衛星2号機搭載用30 W級多放電室型パルスプラズマエンジンシステム




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